展示企画「岡ビル百貨店~にぎわいの記憶、これからの物語~」が現在、「岡ビル百貨店(通称=岡ビル)」(岡山市北区野田屋町1)で開かれている。
展示企画「岡ビル百貨店~にぎわいの記憶、これからの物語~」の展示1(岡ビル竣工図)
愛知県立大学大学院博士前期課程の吉田瑠那さんが企画した同展。吉田さんの卒業論文「戦後岡山における民間主導の生活空間形成」に基づいて、「岡山マーケット時代」「岡ビル竣工」「にぎわいの時代」「岡ビルに暮らす」「岡ビルのこれから」の5部構成で展示する。同活動を知った、岡ビル内で鮮魚店「ナトナ」店主の林宗男さんの声がけで同展が実現した。
吉田さんは2022年、大学3年生の時に初めてのフィールドワークとして2泊3日で岡山を訪れ、26店に聞き取り調査を行った。2代目・3代目が継ぐ店もあり、商売のこと、子どもの頃の生活、結婚して嫁いできた人の話なども聞いたという。
岡ビル百貨店の前進となる「岡山マーケット」が1946(昭和21)年に設立。西川沿いに木造バラックで出店していた店が、当時の闇市とは違う安心して買える市場を作ろうと谷田寿初代社長が岡ビル百貨店を設立した。西川周辺も緑地帯になることが決まっていたことから、建物建設の検討を始め、1951(昭和26)年に竣工する。
同建物は、1階に80店舗の区画があり、2階~4階は店舗で働く人たちの住居空間として建てられた。裏側には銭湯があり、職住一体型の建物が特徴。設計は久米設計、施工は大林組が担当。当時の岡山で鉄筋コンクリート造の建物は日本銀行岡山支店(現ルネスホール)と天満屋岡山店のみだった。
展示品の中には、完成予想図や祭りで使った大太鼓、岡ビルのマークの入った法被の他、当時新聞で公募した岡ビルマークの優秀作品、年代別の入居テナントの変遷を記した区画表シートなどもある。吉田さんは「聞き取り調査では知ることができなかった、岡ビルに来て買い物をしていた人などの声も聞ける。店の変遷を見ると、初めは鮮魚店が8店あり、閉店もあれば区画を広げた店もあった。和菓子店がなくなるとパン店が出店するなど、時代の流れも感じられる。岡山マーケット時代からあったキャッチフレーズ『何でもそろう』が多くの人から出てくる浸透度に驚いた」と話す。
竣工当初からあった「コロッケみつめや」「たまごのハラダ」「ヘアーサロンフクモト」などを含む20店以上が現在も営業している。来年夏ごろには退去、解体が始まり、6年後には「食」とテーマとした商業施設や都市住居、宿泊機能を備えた複合施設に生まれ変わる。
吉田さんは「岡ビルという職住一体の都市型住居に暮らす戦後の人の営みと今に続く歴史を、研究者だけでなく、多くの人に知ってもらう機会としたい。今後も戦争の引き揚げ者や戦災者の生活再建など、人は大きな時代の変化に対応してきたのかを研究していく。最終日まで在廊するので、見に来てほしい」と呼びかける。
展示時間は10時~16時。入場無料。11月22日まで。