社会起業家の慎泰俊(しんてじゅん)さんの講演会「未来の歩き方教室~不確かな世界を生き抜くためのコンパス」が12月14日、「KURUN HALL(クルンホール)」(岡山市北区下石井2)で開かれた。
主催は福武教育文化振興財団と橋本財団。同イベントは、両財団が初めて共同で開催した。福武教育文化振興財団は、「人づくり・地域づくり」を目的に教育と文化の視点から活動助成する。橋本財団は、不登校や不寛容な世の中で不安を抱える子どもなど幅広い福祉支援活動に活動助成している。
数年前、「世界が平和になるために私は何ができますか」と質問した小学生に対して、慎さんは「海外に一人でもいいので友達を作ってみよう。きっとその友達の国のことが気になり、その国の平和を願うようになる。一つずつがつながって世界は平和になっていく」と回答したという。このやり取りを聞いた橋本財団の濱田さゆりさんが福武教育文化振興財団に伝えたところから、同イベントの企画が立ち上がった。
慎さんは、日本で生まれの朝鮮籍。大学時代に人権弁護士になろうと勉強するが、戦争反対のデモ活動をしても世の中が変わらない様子と、お金を持っている人の意見の強さを知り、お金の勉強を始める。その後、モルガン・スタンレー・キャピタルなどに勤務。お金が評価の中心にある会社にいて、2007(平成19)年に機会の平等を作るためNPO法人を立ち上げ、マイクロファイナンス事業を始めた。2014(平成26)年に、民間版世界銀行を目指し、「五常・アンド・カンパニー」(東京都渋谷区)を創業する。現在、7カ国、約200万世帯が貸し付けや預金などの取引をしている。
1時間目は講演「機会の平等を作る仕事」。通っていた高校は、先輩後輩関係が不必要に厳しかった。生徒会長になり、話し合いで解決していった話を紹介した。高齢者を支える社会構造や気候変動など、若い人や弱い人に負担がかかる構造は似ているとし、同じ未来を想像することで、理解を広げていったと話した。
2時間目は質疑応答の「お話を聞いて一問一答」。会場の高校生以下の参加者から、寄せられた質問に答えていった。「起業しようと思ったら何から始めるといいか?」「やりたいことが見つからず、自分に向き合えていないがどうしたらいいか?」「今後、日本の若者が解決しなければならない課題は何か?」など多くの質問が寄せられた。
3時間目はパネルディスカッション「慎泰俊×中高生『未来の歩き方』」。3人の高校生と「未来は明るいか、あるいは暗いか」などのテーマについて話した。講演終了後、慎さんは「自分の経験上、高校生までに会った大人の話や言葉に影響受けた記憶があり、高校生以下の子どもにしか講演しないことにしている。何かいい影響が与えられたならうれしい」と話した。
福武教育文化振興財団の松浦俊明理事長は「勝率が高そうで、誰もやらないところであり、自分の得意な分野であるところを見つける嗅覚にも、社会人としてとても共感した」と話した。同財団の和田広子さんは「『高校時代に気にしていたけど、実は意味がないこと』『高校時代にやっていてよかったこと』などを聞けたことは、多くの若い人の気持ちを楽にしてもらったのでは」と振り返る。