岡山在住の写真家・中川正子さんと直木賞作家・桜木紫乃さんによる写真絵本「彼女たち」(KADOKAWA)が10月13日、発売された。
桜木さんは、2013(平成25)年に刊行した小説「ホテルローヤル」で第149回直木賞を受賞。2019(平成31)年頃から、絵本を作る構想があった。文章は書き終わるが、当てはまる絵が見つからずにいた時、編集者が写真で絵本を作る「写真絵本」にすることを提案したという。今年になり中川さんへの依頼が決まった。
桜木さんは「最初に書いた文章は、『いつも通り』という散文詩だった。中川さんと共作することになり、小説家として物語で勝負しなければならないと思い、約1カ月で初めから書き直した。物語をそしゃくして書き上げるのは長編を書く時と全く変わらない。いつもなら100ページで書くところを5ページにしていく。書かない部分を決めていく作業は、まるで新人になったかのような経験だった」と話す。
中川さんは2011(平成26)年、東日本大震災後に岡山に家族で移住。主に雑誌や広告などの商業写真を撮ってきた中川さんは、岡山に来て本格的に自身の作品としての写真を撮り、個展を頻繁に開くようになった。「今回は桜木さんの熱量に応えるため、2カ月で400枚以上の写真を撮って歩いた。岡山県立図書館や喫茶店ダンケ、夕日の京橋も登場する。登場する3人の女性に思いを寄せながら、シャッターを切った」と振り返る。
同作品は、30代、50代、70代の女性を主人公とした3編で構成。桜木さんは「登場人物にはモデルがいて、経験したことのない70代には数人の先輩の姿を重ね合わせながら書いていった。制作は音楽を作るようにチームで行った。私が歌詞を書き、中川さんがメロディーをつけ、デザイナーが曲をアレンジし、編集者が総合プロデュースをする。音楽を聴くようにパラパラめくってほしい。苦しい人にかける言葉は見つからない。だから、誰かがそっとプレゼントにできる本になるとうれしい」と話す。
中川さんは「写真があることで説明的になりすぎることも、イメージを固定化することもしたくなかった。アート感に満ちた共感しづらい写真も避けたかった。岡山県立図書館や喫茶店ダンケ、夕日の京橋など岡山の人にはなじみの場所の写真も使っている。自分も彼女たちの一人なのかなと思うことがある。東京でバリバリ仕事をする私と岡山でボサボサの頭で洗濯物を干す私。どちらも本当で、どちらも私。答えがあるわけじゃないけど、みんな生きている。完璧じゃないけど、生きているって感じてもらえたら」と話す。
書店「スロウな本屋」(岡山市北区南方2)で10月27日~11月20日、写真のパネル展示を行うほか、10月28日には中川さんのトークイベントを開催。雑貨と喫茶店「ネイロ堂」(番町2)では作品内に登場するミルクコーヒーを期間限定で提供する。