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岡山・坪田譲治文学賞「ぼくんちのねこのはなし」 贈呈式で阿川佐和子さんと対談

児童文学作家のいとうみくさん

児童文学作家のいとうみくさん

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 「第38回坪田譲治文学賞」の贈呈式が3月4日、岡山市民会館(岡山市北区丸の内2)で開かれた。

第38回坪田譲治文学の賞状を大森雅夫市長から贈呈される児童文学作家・いとうみくさん

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同賞は、岡山市出身の小説家・児童文学作家の坪田譲治にちなみ1984(昭和59)年に創設。江國香織さん「こうばしい日々」、角田光代さん「ぼくはきみのおにいさん」、重松清さん「ナイフ」、朝井リョウさん「世界地図の下書き」、村中李衣さん「あららのはたけ」などの作品が、これまでに受賞した。

 今回は、2021年9月から1年間に出版された小説・児童文学など101作品から予選を通過した5作品を、阿川佐和子さん、五木寛之さん、川村湊さん、中脇初枝さん、西本鶏介さん、森詠さん、森絵都さんの7人が選考した結果、いとうみくさんの「ぼくんちのねこのはなし」が選ばれた。

 受賞したいとうみくさんは、神奈川県生まれの児童文学作家。2012(平成24)年に「糸子の体重計」でデビュー。「朔(さく)と新(あき)」で第58回野間児童文芸賞、「あしたの幸福」で第10回河合隼雄物語賞など受賞歴がある。小学生だったいとうさんは約1週間の入院時、大学ノートに初めて小説を書いたという。自身の子どもが2、3歳の頃に児童文学に触れ、「これなら書けるかもと勘違いして書き始めた」と本人は話す。

 受賞作「ぼくんちのねこのはなし」は、小学4年生の一真くんの家で飼う16歳の猫「ことら」が腎不全を患い、看病する家族の物語。いとうさんは「実際に16歳の腎不全になった猫を看病し看取った経験がある。手の打ちようのない病気に対して、戸惑いと悲しみ、やるせなさを書くことで癒やされ、救われた。登場人物を通して客観的に事実を見ることで、苦しいけど自分の感情と向き合えた。気持ちの整理ができ、前に進むことができた。紛れもなく、『わたしんちのねこのはなし』を書いた」と話す。

 贈呈式では、大森雅夫岡山市長から賞状と蛭田二郎作の記念品「鳥の少年」メダルが授与された。記念行事として選考委員で第15回の同賞受賞者でもある阿川佐和子さんとの対談が行われた。

 対談の中で、阿川さんは「読み終わった後、猫の話としてではなく、人間の家族に置き換えて考えるなどもした。『東京子ども図書館』(東京都中野区)元名誉理事長の松岡享子さんから、子どもは本をたくさん読めばいいということではない、読み終わった後に想像を巡らせる時間が大切と教えてもらったことを思い出した」と話した。

 いとうさんは「何かを伝えようと思って書いてはいない。作品は、紛れもなく『わたしんちのねこのはなし』を書いた。一方、児童文学はどんなに悲しいストーリーだとしても、読み終わった後に何かを諦めてしまう作品ではなく、一歩でも明日へ向かって歩ける作品を届けていく。児童書は子どもから大人まで読める文学であることを大切にし、『人』を書いていきたい」とも。

 「ぼくんちのねこのはなし」はくもん出版から発売中。価格は1,430円。

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