鉛筆画家・大森浩平さんの個展が現在、瀬戸内市立美術館(瀬戸内市牛窓)で開かれている。
大森さんは、高校生の頃は好きなアーティストの似顔絵を描いていたが、大学受験の科目で鉛筆でのデッサンをすることになり、鉛筆画に注力するようになったという。鉛筆画では描きづらいといわれる水や金属の表現を特に選び、SNSに投稿。「絵には見えない」と話題を呼び、現在はXで4万5000人、インスタグラムで16万4000人のフォロワーがいる。
同展は初の個展で、大学生の頃に描いた作品から直近の作品まで15点を展示する。2019(平成31)年に同館で開催された「超絶の世界展」に出展した際、岸本員臣館長が「作品数が増えれば個展を開こう」と依頼していたという。
展示作品は、水滴を帯び金属の細かい凹凸まで描いたボルトとナット、鏡のように反射する蛇口、ウェブ上で見つけたという金属のアクセサリーを着け頭から水が滴る海外モデル、腕時計G-SHOCKやグランドセイコーなど。蛇口やスプーン、缶ビールなど実物も展示し、見比べることもできるようにした。
大森さんは「描きたいものが決まると一度、モノクロで写真を撮る。写真を見ながら、一部分に焦点を絞り、光沢、手触り感など丁寧に描くことを繰り返す。芯だけになるまで尖(とが)らせたHから4Bまでの7種類の鉛筆で描く。缶ビールは2週間ほどで描いたが、ボルト・ナットは280時間かかった。描いている間は基本的に苦しい。描くことだけでなく、生活していても神経質になってしまう」と話す。
2022年9月、Xで「鉛筆画を描く人生はいったん終わりにします」と突然投稿し、作品作りをやめてしまう。作品は紙に鉛筆で描かれているため、何かしらの劣化を伴うが、そのことが気になってしまい作品を作ることをやめてしまった。
「岸本館長やSNS上で、もっと見たいと応援してくれる人がいることから、作品制作をもう一度始めた。人生に行き詰まっていたところに鉛筆画を始めた。何か一つでも得意なことや好きなことを磨けば、どんな人でも誰かに喜んでもらえるかもしれない」とも。
岸本館長は「超絶技法のような繊細な絵を描く作家の作品は『どうだ』と迫ってくるような殺気があるが、大森さんの作品にはそれがない。鑑賞者も落ち着いて見ていられる。若い人から年配の人まで多くの人が見に来てくれる。海外旅行者にも日本の繊細な作品を見てほしい。どの作品も写真撮影できるので、多くの人に知ってもらいたい」と話す。
開館時間は9時30分~17時(最終日は17時まで)。月曜休館。入館料は、一般500円、団体20人以上または65歳以上は400円、中学生以下無料。6月30日まで。