旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:工藤 幸四郎、以下「当社」)は、岡山県倉敷市の児島下水処理場で、2025年2月より実施しているバイオガス精製システム(以下「本システム」)の実証試験(以下「本実証」)において、このたび、実ガス環境下での初期評価の結果、メタンの高純度・高回収率の両立に成功しました。この成果を受け、当社は本技術のグローバル展開に向けたライセンスパートナーの探索を開始します。
1.バイオメタン活用の社会的意義
地球温暖化対策やエネルギー安全保障の観点から、再生可能エネルギーの導入が世界的に加速しています。中でも、バイオガス由来のバイオメタンは、既存の天然ガスインフラを活用できる持続可能なエネルギー源として注目されています。特に、バイオメタンの導入が進む欧州では、パイプラインへの注入やバイオCNG※1化の需要が拡大しています。また、インドでは急速な都市化に伴う廃棄物処理・エネルギー供給課題への対応として、バイオガスの利活用が国家政策の一環として推進されています。
2.当社の触媒技術を用いたバイオガス精製システムについて
当社はこれまで、化学品製造を支える触媒開発やガス分離技術において長年の知見を培ってきました。とくに触媒分野では、構造制御や吸着特性に関する独自技術を確立しており、この知見を活かして、CO2を選択的に吸着するゼオライトの開発に成功しました。この技術基盤をもとに、当社はPVSA※2プロセスとゼオライトの組み合わせにより、バイオガスからCO2を効率的に除去して、バイオメタンを高純度かつ高回収率で精製する本システムを開発しました※3。本システムは、再生可能エネルギーであるバイオメタンの利活用拡大に貢献するとともに、カーボンニュートラル社会の実現にも資するソリューションです。
3. 実証試験の概要について
当社は、本システムの性能および運転安定性を実ガス環境下で検証するため、2025年2月より、岡山県倉敷市の児島下水処理場にて、下水汚泥から発生するバイオガスの一部を用いた実証試験を実施しています※4。バイオメタンの精製においては、高い純度と高い回収率の両立が技術的な課題とされており、一般的にこれらはトレードオフの関係にあります。本実証では、これら指標の両立性を、実ガス環境下で継続的に検証しています。
当社独自の触媒技術を用いたバイオメタン精製技術
4.実証試験の評価について
本実証の初期評価として、約1か月の連続運転を実施し、その中で精製されたバイオメタンの純度が、天然ガスのパイプライン注入やCNGなどの燃料に十分利用できる水準である97%以上でした。さらに回収率も99.5%以上の高回収率を確認し、バイオメタン精製の課題である高純度かつ高回収率という性能を同時に成立させることに成功しました。
5.今後の展開
本システムは、当社の無形資産を活用した共創型新規事業創出の取り組み「TBC」※5の一つに位置付けられており、技術ライセンスを視野に各パートナーさまとの共創を推進しています。今後は、欧州やインドをはじめとする地域ニーズに応じた早期の社会実装につなげてまいります。
その実現に向け、まずは倉敷市での実証において、より長時間の連続運転における性能検証とデータ蓄積を継続いたします。加えて、新たなパートナー企業や自治体との提携による商用スケールでの実証へと進め、2027年の上市を目指します。当社は、「変わる未来のはじまりを。」を研究開発の理念に掲げ、無形資産を生み出し、その価値を社会に提供することを通じて、人と地球のよりよい未来の実現を目指してまいります。
※1 CNG:圧縮天然ガスの略称。メタンを主成分とする天然ガスを高圧で圧縮した燃料で、自動車やバスなどの車両用燃料として利用され、ガソリンやディーゼルに比べてCO2排出量が少なく環境負荷が低い。
※2 PVSA(Pressure Vacuum Swing Adsorption):圧力と真空を交互に利用することで、特定のガスを吸着・脱離させて分離する技術。
※3※4 関連リリース
・2022/9/15発表「旭化成、岡山県倉敷市の下水処理場にバイオガス精製システムを設置」
・2025/2/4発表「旭化成、岡山県倉敷市の下水処理場でバイオガス精製システムの竣工式を開催」
※5 TBC(Technology value Business Creation)についてはこちら