岡山県出身の建築家・浦辺鎮太郎(しずたろう)が設計した神道・黒住教大教殿(岡山市北区尾上)が10月16日、360度空間3D-VRを公開した。
ARCHI HATCH(東京都世田谷区)が、360度カメラを使って撮影し制作した。同社のウェブサイトには、建築家・前川國男の「新・前川國男自邸」(東京都小金井市)などの建築、今年7月からJR高輪ゲートウェイ駅前で行われた「Takanawa Gateway Fest」などの展覧会など多くのVR空間を掲載している。
浦辺鎮太郎は、岡山県倉敷市で創業した現在のクラレ(東京都千代田区)の2代目社長・大原総一郎と親交があり、倉敷建築研究所(現・浦辺設計)で務めていた。主な作品に倉敷美観地区にある大原美術館・分館(倉敷市中央1)、倉敷国際ホテル(同)、倉敷市民会館(本町)、倉敷アイビースクエア(同)、倉敷市庁舎(西中新田)など全国に約300件の実作がある。
黒住教・大教殿は、1974(昭和49)年10月に完工した。四方切り妻入り母屋造りで、内部は300枚の畳が敷かれている。屋根の上にある千木(ちぎ)、鰹木(かつおぎ)、棟瓦(むねがわら)は、人間国宝・藤原啓を祖父に持つ岡山県重要無形文化財の藤原建の備前焼が使われている。天井部にある窓にかかる球状ガラスをつるしたすだれの一部は、倉敷ガラスの作家・小谷眞三さんのガラスが用いられている。
VR空間では、神職しか入れない御神前(ごしんぜん)や、7メートルの上空など普段は見ることのできない場所や角度から楽しむことができる。建物内の6カ所では、実際に神事を行っている動画など別画面で見ることもできる。このほかに大教殿までの参道と宝物館のVR空間も公開する。
黒住教本部の黒住宗芳さんは「宗教施設としてだけでなく、文化財としての価値を多くの人に知ってほしい。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、参拝や見学に来ることができない遠方の人にも疑似体験をしてほしい。リアルな見学は信仰に関係なく、いつでも受けている」と話す。
黒住教は、天理教・金光教と並び幕末三大宗教の一つ。神道十三派の一つで、大教殿の御祭神は天照大御神(あまてらすおおみかみ)、八百万神(やおよろずのかみ)、教祖宗忠神。伊勢神宮の式年遷宮の時に譲り受けたヒノキ材を使っている。