第16回岡山県新進美術家育成「I氏賞」の授賞式が3月21日、ルネスホール(岡山市北区内山下1)で開かれた。
第16回岡山県新進美術家育成「I氏賞」・大賞の蓮岡匡浩さん2
同賞は、岡山県ゆかりの若手美術家を育成するための賞として、高梁市出身の伊藤謙介さんの寄付金で2007(平成19)年に始まった。対象者は、県内出身者や県内で美術を学んだ経緯がある人などゆかりのある18歳以上40歳以下の美術作家の中から、今年は36人が推薦され、選考委員会によって選考された。
伊藤さんは「16年はあっという間。文化はあらゆる土壌で、その上で産業なども花開く。目に見えないが一番大事なものであり、県民性や岡山県の盛り上がりにじわじわ効いてくるものだと思う。この賞を目指して頑張る作家がいることはうれしい」と話す。
当日は、伊原木隆太岡山県知事から、大賞=蓮岡匡浩さん、奨励賞=中桐聡美さん、文谷有佳里さんに賞状と賞金が贈られた。高階秀爾選考委員長は「大賞の蓮岡さんの作品は、とても優れたデザイン感覚と色彩感覚があり、ジャンルにとらわれない現代らしい作品。奨励賞の中桐さんの作品は、地元・瀬戸内海をモチーフにした強さと厚みを表現し、版画の可能性を大きく広げた作品。中桐さんの作品は、リズムとハーモニーを平面に表現した音楽的な造形は、新たな魅力を生み出した作品」と講評した。
大賞を受賞した蓮岡さんは「子どもの頃から絵が好きだった。国語や算数は苦手だったので、美術しか取りえがない子だと揶揄(やゆ)されたこともあり、自信を持てないこともあった。家族や先生など私の感性を肯定してくれ、可能性を見いだしてくれる人もいた。私の故郷・児島には、山も海も工場などもある。支えてくれた人や街など、外的環境によって私は作られている。私の作品が評価されたことで、すてきな出会いや環境の中にいたことを改めて実感させてもらえた。今後も、出会いや環境に感謝し、制作に生かしていきたい」と話す。
奨励賞を受賞した中桐さんは「この賞が始まったのは私が中学生の時。美術が好きで、作家を志す私にとって高い目標でもあり、身近な存在でもあった。高校生の時、I氏賞を受賞している松井えり菜さんが通っていた予備校を選んだこと、受賞者の大西伸明さんの大学院を受験したことなど、この賞の存在に影響を受けた。4月から大学院博士課程に進むこのタイミングで受賞できたことで、美術を真摯(しんし)に学びたいという気持ちを新たにした」と意気込みを見せた。
奨励賞を受賞した文谷さんは「I氏賞はこれまで4度、選考に残ったことがある。今年、年齢制限の最後の年だったこともあり、うれしい気持ちとホッとした安堵(あんど)の気持ちがある。音楽大学で作曲専攻だった私が、美術学部の友人と記念受験したことから人生が変わった。美術の専門でない私がアドバイスを一つずつ実行していたら、この場に連れてきてもらった。作品は、当初から同じスタイルで描き続けている。肉体が少しずつ変わっていくように、絵も細く長く続けていくいうちに少しずつ変化していく」と話す。